2018年05月28日

オーラの謎を解く共感覚

オーラを信じる民族

2018052801.jpg シャーマニック・ヒーリングやエネルギー・ヒーリング、レイキ等では、身体を満たして取り巻くとされている「生気論的なエネルギー場」を操作する。チャクラと呼ばれる特殊なポイントに磁石や水晶をかざしたりすることもある。しかも、ヒーラーも患者もリアルにエネルギーの流れを感じることが多い。科学ではまだ気の流れもそれ以外の超自然的な生命エネルギーの実在を確認できていない。しかし、多くの人々がそうしたものを手に取るように体験している事実がある以上、それを「ただの願望の産物にすぎない」とあっさりと片付けてしまうわけにはゆかない(1p211)

 世界中のあらゆる文化圏に住む人々がオーラが見えると主張してきた(1p187)。そして、中には生まれつきオーラが見える人も多くいる。彼らはオーラをチャクラから流れ出したエネルギー、すべての生きとし生けるものが発散している生命力のエネルギー場だと主張する(1p188)

20180528Himba.JPG アフリカのナミビア北西部の不毛な砂漠地帯、カオコランドに住む遊牧民、ヒンバ族は、人間は誰も自分の身体の周囲を包み込むスペースがあると信じている。しかも、このシャボン玉のような空間は他者の空間とも混じりあっているため、部族の者は決して孤独ではないと考えている(1p173)

John-EcclesS.jpg けれども、科学からすれば、身体を神秘的なエネルギー場が取り巻いているという考え方は否定せざるをえない(1p187)。最先端の機器を使用してもオーラの源といえる類のエネルギー場は確認できずにいる。ジョン・カリュー・エックルス(1903〜1997年)卿は主観的経験の「サイコン場」を提唱したが、その実証的証拠を示すことができなかった(1p188)

音楽家や詩人に多い共感覚の持ち主

 「共感覚(シネスシージア)」という現象をご存知だろうか。数字や文字に色があったり、色に匂いがあるように見える感覚のことだ(1p186)。1000〜1万人に一人とされているが(2p120)、音楽家や詩人には、共感覚の持ち主が多い。フランツ・リスト(1811〜1886年)はオーケストラの楽員たちにこう述べていた。

「もう少し青くしてください。このトーンにはそれが必要です」「ここは深い紫色です。バラ色ではなく」

 リストは冗談を言っていたのではなく、本当に音に色が見えるのであった(2p152)

 アルチュール・ランボー(1854〜 1891年)も「Aは黒、Eは白、Iは赤、Uは緑、Оは青。母音よ」という詩を残している(2p152)

Vassily-Kandinsky.jpg ロシアの抽象画家、ワリシー・カンディンスキー(1866〜1944年)も共感覚の持ち主で(2p150)。色を見ると音が聴こえると言っていた。カンディンスキーはカンバスに音楽を描いていたのだ。そして、この絵を見るとその音楽が聴こえる共感覚者もいる(1p186)

 芸術家、小説家、詩人の3分の1は何らかの共感覚体験があるという(2p152)。そして、創造的な人たちには一般的に共感覚の出現率が高い。芸術家がメタファーを得意とするのも、メタファー的に表現をしているからではなく、共感覚の持ち主だからなのである(2p154)

共感覚の謎に取り組んだ天才ゴルドン

Francis-Galton.jpg ダーウィンの従妹にあたるフランシスコ・ゴルトン(1822〜1911年)卿は、過激な人種差別主義者で優生学という似非科学も支援していた(2p116)。とはいえ、ゴルトン卿の天才性は否定できない(2p117)。1892年にネイチャー誌に短い論文を発表し、「共感覚」についての初めて系統的な研究を発表しているからである。ゴルトン卿は最もよくある2タイプの共感覚、音が色を誘発するタイプの聴覚・視覚共感覚と数字が常に固有の色を帯びる書記素・色共感覚について指摘した(2p117)

目は見た通りのものを見ていない

 ラマチャンドラン教授はスーザンという自分の学生が実際に共感覚の持ち主であったことから、それがどのようなものなのかを実際にテストしてみた。すると、アラビア数字の「7」は赤色に見えたがローマ数字の「Z」では見えなかった。このことから、共感覚は数の概念ではなく、視覚的な外形によって引き起こされる現象であることがわかる(2p123)

 ここで、「見る」ということがどういうことなのかを考えてみよう。人間を含めて、霊長類では後頭葉と側頭葉、頭頂葉の一部が視覚に関与し、30もの視覚野のそれぞれが処理にかかわっている(2p88)。そして、知覚はただ脳の中に表示される像ではない。スイスの結晶学者、ジュネーブ大学のルイス・アルバート・ネッカー(1786〜1861年)教授は立法形の結晶を顕微鏡で覗いていて、ある日、突然にその結晶が反転して見えることに気づく。ネッカー教授が偶然に発見した「ネッカー・キューブ」は、そのことを立証している(2p80)

運動視に関与するMT野

 側頭葉のMT野は主に運動視に関与する(2p94)。ここにダメージを受けた患者は、新聞も読め、モノや人も認知できる。けれども、動いているものが連続した静止画像のように見える(2p95)。fMRIは脳の血流量の変化で生じる磁場を測定する装置だが、これで調べるとMT野は動くものには活性化するが、静止画や色がついた文字には反応しないことがわかる(2p95)。また、経頭蓋磁器刺激装置をもちいて、健全なボランティア被験者のMT野を一時的にノックアウトすると他の視覚能力が損なわれないのに、運動盲状態になる(2p96)

色の処理に関与するV4野

Semir-Zeki.jpg 同じように側頭葉の「V4」と呼ばれる領野に色の処理に特化した中枢が存在することは(2p96,2p138)、ロンドン大学ユニヴァーシティ・カレッジのセミール・ゼキ(1940年〜)教授によって発見されている(2p138)。この領野にダメージを受けると世界全体から色が消えて白黒映画のようになってしまう(2p96)

2018052802S.jpg そして、「V4」で処理された色の情報は側頭葉上方部の角回の近くにあるより高次の色の領野に送られて、さらに複雑に処理されている。例えば、緑の葉も日中と夕暮れ時では反射される光の波長組成が異なっている。にもかかわらず、夕暮れ時の葉が赤みがかって見えることはなく、同じ色合いの緑色に見えるのは、高次の色の領野が色調補正をしているからである(2p141)

類似した特徴をグループ化して分離する

Angular-gyrus(角回).gif 緑の木の葉のまだらもようの陰にライオンが隠れているとしよう。網膜に達する生の像はバラバラの黄色の断片にすぎない。けれども、脳はこの断片をつなぎあわせ、ライオンとして認識し、直ちに扁桃体に情報を伝える。つまり、類似した特徴をグループ化して分離する能力は、カムフラージュを見破り隠れた対象物を発見するために進化した(2p134)

 この能力は共感覚につながるのではないか。ラマチャンドラン教授は、「5」の中に三角形の形で「2」が紛れ込んでいる図を見せてみた。コンピューターで0.5秒見せると自然に形を見分けられないため正答率は50%でしかなかった。けれども、「5」に緑、「2」に赤の色を付けると正答率は80〜90%にあがった。そして、共感覚の持ち主に見せると、実際に数字が色分けされているように正答率は80〜90%だったのである(2p137)。これは、ゴルトン卿以来、初めて共感覚が実在することを示した実験だった(2p138)

色の共感覚は脳の混在によって生じる

Edward-Hubbard.jpg 最もよくあるタイプの共感覚は数字・色タイプである(2p138)。そして、ほぼ同じ部位に数字に特化した領野がある。この領域に障害がある患者は計算能力が失われることと(2p138)、視覚的な数字認識が起きる脳領野が「V4」の隣にあることはfMRIを用いてマッピング化することからもわかる(2p139)。数字・色の共感覚は、これらの特化した領野の間のクロス活性化で生じるのではないだろうか(2p143)

 LSD等の幻覚剤を服用すると共感覚が起きることがあるが、正常な脳でも互いに離れた脳領域の間でかなりの神経結合が存在することが判明している。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗鬱剤を服用すると、共感覚が一時的に失われたという共感覚者もいる。これは、近くの脳領域での神経伝達物質によるクロス活性化によって共感覚が生じることを示唆している(2p143)

Steven-Scholte.jpg ラマチャンドラン教授はウィスコンシン大学マディソン校のエド・ハバート准教授とソーク研究所のジェフ・ボイントン(現在ウィスコンシン大学マディソン校教授)との共同研究によって、書記素・色の共感覚者では、色がついていない数字を見てもV4領域が活性化されることを示した。そして、オランダのアムステルダム大学のロムケ・ロウ博士とスティーヴン・ショルテ博士の研究によって、低位の共感覚者ではV4と書記素の領野をつなぐ軸索がかなり多く、高位の共感覚者では角回近辺の神経線維の数が多いことも明らかにされた(2p147)

ペリパーソナル・スペース

 さて、話が飛ぶ。脳は、身体の周囲を取りまく空間をイメージしている。神経科学者はこれを「ペリパーソナル・スペース」と呼ぶ(1p174,1p188)。外界を移動するときに身体が空間内のどこに位置しているのかを正確に把握しておかなければ、木の枝にぶつかったりするのだから当然のことだ(1p175)。この「ペリパーソナル・スペース」が、上述した数々の不思議な経験を科学的に理解するための手がかりになる(1p188)

「ペリパーソナル・スペース」が初めて体系的に研究されたのはいまから30年前。イタリアの神経科医、エドアルド・ビジアッチが右頭頂葉に脳卒中が起きた場合に起きる「半側空間無視」という障害に着目したことに始まる。「半側空間無視患者」は、例えば、左側の空間や自分の左半身をまったく認知できない。すなわち、それは最初から存在していないのである(1p177)

 このマッピングがどのようになされているのかをプリンストン大学の神経学者、マイケル・グライツィアーノのチャールズ・グロスは1994年にサルの脳に電極を挿入することで明らかにする。二人が着目したのは「前運動野」であった。そこは「運動野」であると同時に、触覚と視覚の両方に反応するニューロンが存在する。実験でサルの手の甲に刺激を与えると手の領域にあたる神経細胞がひとつ以上発火した。けれども、20p以内の離れた場所にモノをおいてもサルがそれを見た場合には同じニューロンが発火した(1p183)。これはこのニューロンが触覚だけでなく身の回りの空間もマッピングしていることを意味する(1p184)

オーラはペリ・パーソナルスペースと色の混線

Jamie-Ward.jpg 2003年、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの心理学者、現在、サセックス大学のジェイミー・ウォード教授は、オーラが見えるという女性、グロリアを研究していた。グロリアは情緒と色の共感覚の持ち主であった(1p185)

 人は誰もブルーな気分といったように気分を比喩的な意味で色と感覚を結びつけることがある。けれども、グロリアはその程度が半端ではない(1p186)。本当に色が見えるのである。すなわち、グロリアのオーラは、ペリパーソナル・スペースと色と感覚が統合されている(1p188)。ウォード教授はこの原因として、脳感覚領域の異常な混線のためだと考える(1p186)。つまり、オーラとは交差された脳の自然な産物だったのである(1p188)

【画像】
オーラの画像はこのサイトより
ヒンバ族の画像はこのサイトより
色の錯覚の画像はこのサイトより
角回(angular gyrus)の画像はこのサイトより

【人名】
ジョン・カリュー・エックルス(John Carew Eccles)卿の画像はこのサイトより
ワシリー・カンディンスキー(Wassily Kandinsky)の画像はこのサイトより
フランシスコ・ゴルトン(Francis Galton)卿の画像はこのサイトより
ルイス・アルバート・ネッカー(Louis Albert Necker)
セミール・ゼキ(Semir Zeki)教授の画像はこのサイトより
エド・ハバート(Edward M. Hubbard)准教授の画像はこのサイトより
ジェフ・ボイントン(Geoff Boynton)
ロムケ・ロウ(Romke Rouw)
スティーヴン・ショルテ(Steven Scholte)教授の画像はこのサイトより
ジェイミー・ウォード(Jamie Ward)教授の画像はこのサイトより

【引用文献】
(1) サンドラー・ブレイクスリー、マシュー・ブレイクスリー『脳の中の身体地図』(2009)インターシフト
(2) V.S.ラマチャンドラン『脳のなかの天使』(2013)角川書店
posted by la semilla de la fortuna at 06:00| Comment(0) | 脳と神経科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする