2016年09月26日

love2.0〜アップデートする愛〜慈悲ガイド@

愛とはつながりである

愛を定義しなおす

 従来、耳にされる「愛」とは、恋人を望むように欲望が中心である。そして、愛は、責務や誓約ともみなされがちである(p13)。実際、数多くの映画や歌は、愛をハッピーエンドな物語、陶酔、性欲、責任と見なしている(p15)。けれども、愛は性欲でもなければ、責任でもない(p14)。こうした先入観を捨てて、愛の定義を「2.0」へと「アップ・グレード」する必要がある(p13)

愛の対象はかなり幅広く、同時に愛の時間は短い

 愛は独占的で排他的なつながりだとの概念が持たれている(p15)。けれども、現実の愛は配偶者や親しい仲間や親族のような者たちだけに限定されるものではなく、普通にイメージされるよりもはるかに幅広い(p15,p28)

 また、愛は無条件に永続的なものだとも考えられているが、その時間尺度は普通に考えられているよりもはるかに短い(p15)。例えば、感情は永続するようにはできていない。どれほどよい感情を持ったとしても、せいぜい数分続くのが関の山で、何カ月も何年も続くことはない。そして、愛も感情である。したがって、天候のように絶えず変化する(p27)。愛はある前提条件に従い、かつ、その時々の状況に敏感なのである(p15)

 愛を生物学的に捉える

生物学的なつながりが愛に発展したわけ

 恐怖、怒り、嫌悪といったネガティブ感情は進化によって発展してきた。けれども、同時に生殖を成功させるためには、絆を作ることが必要である(p41)。そこで、他の生物とつながったときに、良い感情が生じるという生化学反応も生まれた(p42)。このようにして、長年の進化による自然淘汰によって「つながりの感情」が作られて来た(p32)

オキシトシンは絆を深める

 社会的な絆において、オキシトシンが重要な役割を果たしていることは、プレーリー・ハタネズミの実験から明らかになった(p64)。異性の前で一匹のハタネズミの脳にオキシトシンを注入すると、長期的に一緒にいたいという気分が生じて、互いに寄り添うのである(p65)

 人間においては、合成型のオキシトシンを鼻用スプレーとして研究用に用いることがヨーロッパで認められたことから、2005年にチューリッヒで128人を被験者に「信託ゲーム」の実験がなされた。あるグループをランダムに「投資者」と「受託者」にわけ、投資をさせると、オキシトシンを投与することで両者の信頼関係が高まることが見出されたのである(p66)

オキシトシンは扁桃体による恐怖を抑える

31Ledou.jpg ニューヨーク大学の神経科学センターのジョゼフ・ルドゥー(Joseph E. LeDoux, 1949年〜)教授が、『情動の脳科学』で明らかにしているように、生物は自然淘汰によって、脅威に対して反応するようにできている。そして、この脅威検出システムは無意識に働く(p31)。けれども、オキシトシンによって、扁桃体による恐怖感情が抑えられ(p67)、ストレス・ホルモン、コルチゾルも減ることがわかっている(p68)。その理由は、ネズミから明らかになっている。母親からグルーミングをされたり舐められたりすると、その子ネズミの扁桃体におけるオキシトシン・レセプターが増え、オキシトシンに対する感受性が増す。すなわち、愛情を受けて育った子ネズミは、物おじすることなく好奇心が旺盛でよりおとなしい物腰のネズミへと育つ(p71)

オキシトシンは敵か味方かを見抜く勘を鋭くする

  すなわち、オキシトシンは「闘争・逃走反応」の反対の作用をもたらし、哺乳類における「つながり反応」の主役とされている。けれども、オキシトシンは、つながるスキルを鋭くするわけではないし、ただ盲目的に見知らぬ人を避けようとする恐怖心を鎮めるわけでもない28Paul Ekman.jpg

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校、人間相互関係研究所のポール・エクマン(Paul Ekman,1934年〜)所長によれば、人間は通常50種類もの異なるタイプの微笑みを用いているという。研究者たちは「スローモーションビデオ」の力を借りて、この微妙な微笑みの違いを突き止めているが、すべての人は微笑みの真の意味を勘で判断しているという(p33)。また、アイ・コンタクトによって本当に相手が誠実かどうかを判断しているという。愛は決して盲目ではないのである(p34)

 そして、オキシトシンによって、人は相手の目により注意を払うようになり、アイ・コンタクトやとりわけ、微妙な微笑みに対する注意力を高め、相手の感情をよく判断できるようになることがわかっている(p67)。すなわち、オキシトシンは、誰が信頼すべきで誰が信頼すべきではないかの「勘」を高める(p68)

 あらゆる人々は、生き延びるために、社会的なつながりを必要としている。オキシトシンは、他人の示す善意の暗示を察知して、その人に対しては自分も善意をもってアプローチをするように導くのである(p69)

迷走神経が活発な人はオキシトシンが多くポジティブである

 心拍数は恐怖を感じたり侮辱されると高まる(p71)。いわゆる「闘争・逃走」反応である。そして、高まった心拍数は静めるのは、迷走神経の働きである(p72)。すなわち、迷走神経が最も重要なのは、脳と心臓をつないでいることにある(p71)

 人間の心拍は、息を吸うときに少しスピードアップし、息を吐く時にはスローダウンする。そして、迷走神経の活力が高まると、健全な「心不整脈」のパターンが生じる(p73)

 迷走神経はアイ・コンタクトを良くしたり、表情を他の人とシンクロさせたり、中耳の小さな筋肉を調整することで、バックグラウンドのノイズから彼女の声を良く聞こえるようにもする(p72)。すなわち、迷走神経の活力が高いと、精神的には注意力が鋭敏となり、変化し続ける環境にも無意識レベルでよく適応できる(p73)

 感情・行動の調節能力が高まり(p73)、周囲の人と同調ができ(p76)、社会的には他者とポジティブなつながりが作れるようになっていく(p74,p76)

 迷走神経の活力が高い人ほど、ポジティブな共鳴を多く体験する。したがって、迷走神経は、愛の潜在力と言える(p74)。さらに、ポジティブな共鳴はオキシトシンのレベルも上げる(p77)。そして、ポジティブな感情と迷走神経の活性化は互いに高め合う(p235)。愛が愛を呼ぶのである(p76)

ポジティブに共鳴するとき脳はシンクロしている

Uri-Hasson.jpg ポジティヴィティな共鳴を感じ、本当に他者とつながると、その時に、脳は他人の脳とシンクロを始めている(p56)。従来の脳の研究は一人の脳だけを研究してきたが、2010年、プリンストン大学のウリ・ハッソン(Uri Hasson)准教授は、物語をヘッドホンで聞かせ脳がどれだけ同調するのかをfMRIを用いて調べてみた(p58)。そして、コミュニケーションが成功するときには、ほとんどの脳領域で聞き手の脳が語り手の脳を1〜3秒後にシンクロしていることがわかった(p60)。さらに、大脳皮質のいくつかの領域は数秒前に相手の脳活動を予期していた。ハッソン准教授によれば、脳のリンクロが互いを理解する手段なのである。そして、良いコミュニケーションの状態では、二人はひとつの共有する「感情」を感じている(p61)。そして、ポジティブな共鳴は、脳領域を構造的に変化させ、脳の可塑性も関係してくる(p77)

 すなわち、愛は、他者とポジティブな感情を共有し、他者と生化学・行動で同時性が起こり、互いの幸せのために投資をしようという動機が起きたときに生じる(p28)。この三つを「ポジティヴィティ共鳴」と呼ぼう(p29)。それは、生化学的に同期する変化と、互いの配慮のための言語的・非言語的表現によって増幅されていく(p30)

 そして、このポジティブな共鳴は生化学的変化を起こす(p227)。このため、身体的には炎症が抑えられる(p73)。フレドリクソン教授は、ソーシャル遺伝子センターのスティーブ・コール所長との共同研究で、炎症、遺伝子発現のパターン、迷走神経とが関係していることを見出す(p109, p235)。すなわち、細胞内の特定の遺伝子の発現が強化されたり弱まったりする(p235)。

 真の脅威はそれほど多くはない。けれども、不安、憂鬱、孤独、そして、自尊心の低さに悩む人は、はるかに多くの脅威を知覚する(p31)。このため、孤独で他人と切り離されたように感じていると、ストレス・ホルモン、コルチゾールが増え、炎症反応がより長期的となり(p78)、免疫系の白血球に影響を及ぼすため(p109)、免疫系が弱まり、慢性病にかかりやすくなる(p78)。これは、逆に言えば、ポジティブな人は風邪を引きにくく、心臓病、脳卒中、糖尿病、アルツハイマー、癌にかかりにくいことを意味している(p109)

 愛が身体を生化学的に変化させたり、DNAが細胞内で発現する形態すらも変えることが新たな科学によってわかってきたのである(p12)

ポジティブだと知覚の扉が開いて発想が豊かになる

 イギリスの詩人、ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757〜1827年)は、1790年の『天と地の結婚』で「もしも、知覚の扉が清められていれば、すべてのものは人間にあるがままに見える」と書いた。

 オルダス・ハクスリー(Aldous Huxley, 1894〜1963年)は、1954年の著作『知覚の扉』で、サイケデリック・ドラッグを用いた最初の体験を記している。ハクスリーは、ブレイクの隠喩になぞられ、人間の脳を減圧弁に例え(p83)、一時的にそれを広く開くことができるとの仮説を提唱していた(p84)

 このハクスリーの仮説は、現在、機能的磁気共鳴影像法(fMRI)を用いた研究によって事実であることが確認されている(p84)

 人間の脳には顔に反応する脳領域(FFA)と場所に反応する脳領域(PPA)とがあるが、ネガテイブ感情によって「知覚の扉」が閉じられていると、顔を認識する脳領域だけしか活性化しない。すなわち、ネガティブ感情は人の知覚を狭め(p85)、認識力も狭める(p105)。 

 一方、可愛い子犬やおいしそうなデザート等、ポジティブ感情を引き起こすイメージを見ておくと、場所に反応する脳領域(PPA)の血流も増加する。すなわち、ポジティブ感情は人の知覚を広げる(p85)。フレドリクソン教授によれば、ポジティブ感情によって、いつも「自分」に焦点をあわせている知覚は拡張していく(p62)。これは、気分が良いときには、ホリスティックな見方が可能となり、「点を結んで全体像」を創りあげたり、一見矛盾した見方を統合して「大きな絵を見る」ことができるようになることを意味している(p105)

 それだけではない。ポジティブ感情によって「知覚の扉」が開けば、他者とつながる準備ができる(p86)。さらに、他の人とつながりポジティブな共鳴が産みだされると、互いを統一された全体の一部とみなすようになる。これは、慈悲によって心は同心円状に広がり、多くの範囲の他者にまで含むようになるのである(p87)

愛とはつながりの感覚、大洋の感覚

 バーバラ・フレドリクソン教授は、2010年に、ボストン大学のダニエルセン研究所に招かれ、感情の科学が霊性の発達や宗教的な安寧とどのように関連するのかの講義を行った(p222)

 宗教学者、心理学者、哲学者は、いずれも、自分の境界が消滅して、自分がはるかに大きなものの一部であると感じる「つながりの瞬間」のことを指摘してきた。ジークムント・フロイト(Sigmund Freud, 1856〜1939年)は、この感覚を母親と一体化していた頃の幼児退行だと一蹴したが(p222)、ウィリアム・ジェイムズ(William James, 1842〜1910年)は、霊的体験の基盤として、これを支持し、1902年の著作『宗教体験の諸相』において「感情は宗教の深い源泉であり、哲学的及び神学的的定式は二次的な産物にすぎない」とまで述べている(p223)。実はこの「大洋の感覚」は、愛の特徴の一部である(p222)。愛とは他の生物との、真にポジティヴィティのある一瞬の暖かさ、つながりである(p12,p19)。愛とは、自分が何か大きなものの一部であると感じさせる「超越性」である(p27)

【画像】
ジョセフ・ルドゥー教授の画像はこのサイトより

ポール・エクマン所長の画像はこのサイトより
ウリ・ハッソン准教授の画像はこのサイトより

【引用文献】
バーバラ・フレドリクソン『LOVE2.0』(2014)青土社
posted by la semilla de la fortuna at 23:03| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする