ミハイ・チクセントミハイのフロー理論や自己実現論をより深く理解するためには、世界とは何か、時間とは何か、未来とは何かという深い理解が欠かせない。そこで、マイケル・タルボットの「ホログラフィック・ユニヴァース」を20年ぶりに読み直し、まとめなおしてみるという作業を第7講からやってきた。
夢を通じて未来も予知できる
第11講では、過去の情報にアクセスできる人間が存在することをみてきたが、過去のみならず、未来に起きる出来事の一部も過去と同じほど簡単にアクセスできるとの膨大な証拠がある(P277)。例えば、タイタニック号の沈没を予知するヴィジョンを見た人は、記録されているだけでも19もある(P285)。
過去透視と同じく、予知情報も立体画像の形で現れることが多い。例えば、キューバ出身の超能力者、トニー・コルデロは、キューバ全土に赤い旗が立ち、キューバが共産主義者に征服されるヴィジョンを子どもの頃に目にした(P281)。
そして、未来余地の60〜68%は夢の最中に起きるとされている。このことは、誰もが本来予知能力を持っているが、それが無意識の領域に追いやられていることを意味する。そして、夢を見ている状態では意識が深いため、未来の情報にもアクセスしやすい。伝統部族の文化はこのことをよく知っている。このため、各地のシャーマンの伝統では、未来を占う際に夢の果たす役割が重視されている(P283)。
人は数多く存在する未来の中からあるものを選択することで未来を創造している
未来が予知できるとすると、未来とは固定されたもので、すべては事前に決められてしまっているもののように思える(P285)。

ホログラフィックな領域では過去も未来もない。カール・プリグラムは、波動領域にあるホログラフィックな宇宙では4000年前は明日かもしれないと語っている(P272)。そして、ロイ博士の見解によれば、ひとつのホログラフィックなユニヴァースの未来は前もって決まっている。未来が予知できるのも、そのホログラムに波長を合わせることによってだ。けれども、同時に未来は変えることができ、未来の予感を感じて行動を変えるとき、あるホログラムから別のホログラムに跳躍する。そして、それこそが自由になる力をもたらすものだと考える(P286)。
様々な未来が数多く存在し、それを選択しているとのロイ博士の見解は、意識が未来創造に一役買っていることを意味する。すなわち、人間は自分の運命を自分で決めていることになる(P288)。
退行催眠と臨死体験によれば人は成長するために自分の運命を決めて産まれてくる

@原始人以前の前世まで退行するとそれが限界点となり、ある前世が他の前世と区別がつかなくなった
A魂には男女の性別がなく、少なくとも過去には別の性として生きた経験を持っていた
B学び進化していくことが人生の目的であり、何度も生まれ変わるのはその機会を与えられている(P290)
C生と生との中間には光に満たされたまばゆい領域があり、時空間が存在せず、誰もが倫理的・道徳的に高い意識を持ち、過去の過ちを認め自分の行為を償うため、ここで人生が計画される(P292〜293)

@愛おしさ、罪悪感、義務感から過去世で知っていた人間と一緒に生まれ変わることが多い
A因果応報的なカルマはなく、運命も偶然ではなく、人としての責務から自ら選んでいる
B人生で最も重要なことは、外面ではなく、人間としての内面的な成長である(P294〜296)。
このホイットン博士やスティーヴンソン博士の見解によれば、無意識の心は、自分の運命の大枠をつかんでいるだけでなく、自らその方向付けすら行ない、人生の計画を立てていることになる(P292〜293)。
予想される四つの未来〜破局か調和か
サンフランシスコ在住の心理学者、故ヘレン・ウォンバック(Helen Wambach, 1925〜1986年)博士は、小規模なワークショップで退行催眠をかける調査を29年も行なってきた。輪廻転生では、誰もが有名人が歴史的な人物の過去世ばかりを思い出しているとの批判がなされるが、ウォンバック博士の調査では被験者の90%以上が小作人や農民、労働者、狩猟採集民としての過去世を呼び起こし、貴族としての前世は10%にも見た図、有名人であった記憶を持った人は一人もいなかった(P304〜305)。

@宇宙ステーションの住み、銀色の服を着て、人工食品を食べているという味気ない未来
A人々が地下都市やドームのような都会に住む殺伐とした機械的な未来
B大災害を生きのびた人々が都市の廃墟や洞窟、孤立した農場で毛皮を着て狩猟に依存して生きている未来
C自然環境に恵まれた中で霊的な進化をするため自然や互いに調和した暮らしを営む未来
スノウは、この調査結果は、運命の霧の中に起きる可能性がある未来が存在しているのだと考える。そして、来るべき破局を逃れるために核シェルターを作るよりも、良い未来を信じて、それを想い浮かべることに時間を費やすべきだと説いている(P305〜306)。
シンクロニシティとは本来は意識と現実がひとつであることを垣間見せる亀裂現象

ユングは従来の科学ではまだ知られていない物事を結びつける非因果的な原理が働いていると考えた。当時、このユングの考え方を真剣に受け止めたのは、物理学者ウルフガング・パウリだけだった(Wolfgang Pauli, 1900〜1958年)。けれども、非局所的な結合性の存在が証明されたことから、ユングの考え方を改めて見直そうとする物理学者も一部出てきている(P93)。その一人が 物理学者、ディビッド・ピート(David Peat,1938年〜)博士である。
ディヴィッド・ボームの見解によれば、意識と物質が別々の存在に見えるのは錯覚にすぎない。あらゆるものが湧き出す内在秩序のレベルでは意識と物質との間には境界はない。
だとすれば、深層での結びつきの痕跡が日常の現実にあらわれたとしてもおかしくはない。ピート博士は、シンクロニシティとは、現実という織物にできた「裂け目」、あらゆる本質の根底にある巨大な秩序、物質と意識とに境がないことを垣間見せてくれる主観的な亀裂だと考える。

想い描くことで未来は創造できる
無意識の心の深い部分、霊的な部分は、時間の境界を越えるところまで及んでおり、自分の運命を決めているのもこの部分だとする考え方は、数多くのシャーマンの伝承と合致する。例えば、インドネシアのバタック族は、人間が体験することはその人の魂(トンディ)によって決められると考える。オジブウェー・インディアンによれば、人生は成長を促すように目に見えない魂によって筋書きが書かれている、必要な教訓を学ばずに死んだ人間は再び生まれ変わる(P299)。
チベット密教でも、宇宙はすべて心の産物であり、すべての存在は思考物質「ツアル」の集合によって創造されると考える。そして、望むものが創造される姿を繰り返し思い浮かべる視覚化の訓練、「サーダナ」が重要であるとした(P300)。
12世紀のペルシアのスーフィたちは、瞑想を利用して霊的なことを教える導師イマームがいる次元「精霊の棲む地」を訪れていた。彼らは、これを「隠されたイマームの地」と呼んだ(P357)。スーフィたちは、思考の精妙な物質を「アラム・アルミタル」と呼び、自己の運命を変えて新たなものをもたらすためには「創造的な祈り」、すなわち、視覚化重要で、それは胸のチャクラ「ヒンマ」をコントロールすることが前提条件であるとしていた(P301,358)。このことは、ホイットン博士の被験者が、イメージすることでモノを作り出せ、なぜ、イメージすることが健康に影響を及ぼすのかに新たな解明の光をあてる(P358)。
また、ハワイのカフナは、思考は、影の身体(キノ・メア)というかすかなエネルギー物質で出来ており、希望、夢、恐れ、罪悪感等は心を去った後も消滅せず、想念として高次の自己「アウマクア」が未来を織り成す糸の一部となっていくと考える。そして、高次の自己とつながれるカフナは、人の未来を作り変える手助けができ、人は頻繁に立ち止まっては自分の人生について考え、自分の希望を具体的な形で思い浮かべることが大切だと考える(P299)。カフナによれば、未来は流動的ではあるものの、様々な「結晶化」の可能性から成り立っており、世界の重大な出来事や結婚や事故、死といった個人の人生での重要な出来事も早い時期に結晶化すると考えた(P287)。

【引用文献】
マイケル・タルボット『ホログラフィック・ユニヴァース』(1994)春秋社 マイケル・タルボット『ホログラフィック・ユニヴァース』(1994)春秋社 第3章 ホログラフィック・モデルと心理学、第7章「時を越えて」、第8章 スーパーホログラムの旅、第9章 夢時間への回帰
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