はじめに
このブログ「幸せ探偵」は、とにかく経済成長が必要である。そのためには、戦火を交えることも辞さないという国家の有り様を、個人レベルの「幸せ」という切り口から捉え直してみたいと思っている。確かに、世界が貧困や戦争に苦しめられ、多くの人々が絶望の中にいるとき、自分だけ幸せになって何になるという見解もあろう。けれども、ソニア・リュボミアスキー教授は、こう述べている。
「たとえ全世界の問題が解決するまで自分が幸せにならないと先送りしたとしてもそれは誰のためにもならない。人は幸せになればなるほど、健康になり、生産的で創造的となり、よりいっそう他人に援助の手を差し伸べるようになる。したがって、まず自分が幸せになることが結果としてまわりの人たちも助けることになるのである(5p249〜250)」
この見解は正しい。第14講では「どれだけマネーを儲けたかよりも、どれだけ多くの人たちを幸せにできたかに人生の価値があると考える若者が増えている」という諸富祥彦明治大学教授の意見を紹介した。第15講では「マネーを持っている人よりも、周囲の人から必要とされている人間となる夢を持つことが幸せの要件である」ことが見えてきた。
他者に尽くし、他者を幸せにすることが幸せにつながるのであれば、これは確実に「経済至上主義」のパラダイムを超えている。
成功者の80%は偶然で成功していた
幸せになるためには、何が重要なのであろうか。努力だろうか。能力だろうか。世渡りのスキルであろうか。前向きに考える姿勢、ポジティブ・シンキングだろうか?(2,4p50)。

幸せになる人はオープンマインドで楽観的
クランボルツ博士が気づいたように、成功して幸せになっている人は、確かに様々なラッキーな出会いや出来事に恵まれていた(2,4p56)。けれども、彼らは、そうしたラッキーな偶然が起きやすい価値観、開かれた心を持ち、ラッキーが訪れたときにすぐに具体的に行動していた(2,4p58)。逆に言えば、ラッキーな出来事や出会いがいつ起きてもいい心の準備ができていたことから、ラッキーな偶然が起きていることになる(4p58)。
クランボルツ博士は、偶然をチャンスに変えるためには、次の5つの鍵があると指摘する。
@好奇心
どうせ無理と決めつけず、何か心にひっかかるものを大切にかかわってみる。
A粘り強さ
気乗りしない仕事であっても心を込めて取り組む。情熱・パッションが必要である(2,4p59〜60)。たとえ気乗りがしないことでもはまってみることが天職にめぐりあうことにつながる(4p61)。
B柔軟性(オープン・マインド)
クランボルツ博士の調査によれば、18歳のときに考えていた職業に就職している人は2%にすぎない(2,4p63)。「自分にはこの仕事しかない」「自分の結婚相手はこんな人だ」と決めつけていると、それ以外の可能性や選択肢に心を閉ざしてしまう(2)。
C楽観性
「ダメでもともと。とりあえずやってみよう」という肯定的な人生観がなければ、目の前のチャンスをみすみす逃してしまう。
Dリスクを恐れない
楽観的な生き方とは、リスクを恐れない生き方でもある。リスクのないチャレンジ等ありえない。リスクを恐れすぎていると、その人の運命は凝り固まってしまう(2,4p65〜66)。
要するに、「こうありたい」「こんな人生を生きてみたい」という深い心の願い、まっすぐな志が重要なのである。幸せを導く偶然、ラッキーな出来事や出会いは、それにふさわしい言葉、表情、行動をとっているときに、必然的に引き寄せられる(2)。クランボルツ博士は、「人生が成功するかどうかは、様々な偶然を活かせるかどうかで決まる」とプランツ・ハップンスタンス理論(計画された偶然性理論)を提唱する(2,4p54)。
ポジティブなオーラ〜小さな幸せに感謝して生きる
私たちの日常は小さな、偶然のつながりや出会い、すなわち、ご縁によって成立している。小さな幸せを大切にして、それに感謝して生きることで人はもっと幸せになれる。そして、幸せの追い風が吹いて来ることは間違いない(4p75〜78)。
要するに、幸せをつかめる人とつかめない人との違いは、巡ってきたチャンスを捉まえる心構えがあるかどうかにつきる(4p23)。世の中には、幸せのオーラを出している人がいる。「病は気から」と言われるが、「幸せも気」なのである。幸せの波に乗るためには、幸せの気を出す必要がある(4p18)。
クランボルツ博士は「偶然」は引き寄せることができるだけでなく、計画的に起こせるものだとも指摘する(4p79)。ただし、出会いやつながりやご縁を育むには、エゴを消すことが必要である。相手を自分のために利用しようという気持ちがあると、それは必ず相手にも伝わる。そんな人を前にすれば誰もが一歩引いてしまうに違いない。何かワクワクするという自分の気持ちにしたがって行動するだけでよいのである(4p83)。
フローで生きればシンクロニシティが起きる
プランツ・ハップンスタンス理論は、フロー理論と重なるところがある。「幸運」や「ツキ」は単なる偶然ではなく、こちらの心の持ち方ひとつで引き寄せられる。これまで「幸運」という言葉で片付けられてきた捉えどころのない現象に初めて科学的なメスをいれたのが、フローの概念である(1p6〜7)。心理学者チャーリーン・ベリッツとメグ・ランドストロムは、フローがどのように機能するのかを知るため、弁護士、主婦、教師、牧師、ダンサー、学生等、50人もの多様な人々にインタビューを行う(1p15,4p91)。その結果、おしなべて開放的であり、自分に誠実に正直に生き、かつ、常に感謝の気持ちを忘れない人々であるという共通項が見えてきた(1p13)。
テレビを付けた瞬間に自分の仕事に重要なニュースが流れ込んでくる。バス停に着いた瞬間にバスが到着する。交通渋滞で15分遅れてレストランに到着するとちょうど約束した友人がその時間にやってきた。コーヒーを飲みながら気になっている人のことを思い浮かべていたら、目の前にその人がいた。こうした意味のある偶然をシンクロニシティと呼ぶ(4p89)。
心を開き、前向きに物事や他者を信頼すれば、シンクロニシティが至る所で出現し(1p14)、すべてのことがあらかじめ仕組まれていたかのように充実した人生が送れる(1P10)。一方、不信にかられて恐れを抱き、なにごともコントロールすればするほど、フローが減少し、シンクロニシティも起こらず、日々の生活は障害と要求不満だらけとなっていく(1P14)。
フローを達成している人々の行動パターンから、チャーリーン・ベリッツとメグ・ランドストロムは、以下の9つの心の持ち方の原則を抽出する。
@物事に真剣にかかわる
A自分に素直になる
B勇気を持つ
C情熱を忘れない
Dいま、ここに生きる
E心に壁を作らない
F物事をあるがままに受け入れる
G前向きに生きる
H信頼する(1p15,4p91)
そのうえで、鍵はシンクロニシティにある心安らかに生きるためには、凍えそうなヒマラヤの洞窟でマントラを唱えるヨーガ行者になる必要はないと示唆する(1p15)。
表を見て頂きたい。ハップンスタンス理論とフロー理論がほぼ重なることがわかるだろう。
キーワード | ハップンスタンス理論 | フロー理論 |
---|---|---|
興味心と真剣さ | 好奇心 | 物事に真剣に関わる |
情熱と粘り強さ | 粘り強さ | 情熱を忘れない |
心を閉ざさす素直に生きる | オープン・マインド | 自分に素直になる 心に壁をつくらない 物事をあるがままに受け入れる |
信頼して楽観的に生きる | 楽観性 リスクを恐れない | 前向きに生きる信頼する |
いまの瞬間を生きる | いま、ここに生きる |
本当の幸せは自分のミッションに取組み魂が歓ぶ日々を送ることで得られる
「この仕事が成功すれば幸せになれる」「この人と結婚すれば幸せになれる」
人はとかく目標を設定して、それに近づくことが幸せになる方法だと考える。けれども、そうした考え方では「本物の幸せ」はいつまでたっても手に入らない(4p158)。
高い地位に就いたり、多くのマネーを稼ぐよりも悔いのない人生、魂が喜ぶ毎日を生きることが、間違いなく重要である。いくら高い社会的な地位が得られたり、いくらマネーを稼いでも、それはあの世には持っていけないからだ(4p150〜151)。
本当の幸せは、自分が大切にしたい何かを大切にしたり、愛する人のために尽くしていたり、自分の人生で成し遂げるべき「使命」に取組み、我を忘れて夢中になっているときに、「ああ、私はいま幸せだ」と思えるものなのである(4p158)。
幸せな人は暗黙の人生のシナリオを信じている
人は偶然のようにしか思えない出来事をとおして「運命の人」と出会ったり、「天職」ともいえる仕事に出会ったりする。そして、知らず知らずのうちに運命の道へと誘われていく(4p164)。そして、人生の様々な出来事が単なる偶然ではなく、必然であったと気づくとき、人生にはまるで「暗黙のシナリオ」があり、そのシナリオを気づかずに生きているのではないかという不思議な感覚に捉われる。この人生を生きることで、魂に刻み込まれた「私の人生に与えられた使命」を果たすことができる。私がこの世に生れてきた意味と目的はここにある。心の深いところが満たされ、真に幸せな人生を生きている人は、誰しも同様の人生の「必然の感覚」を持って生きている(4p93)。
ネガティブ思考は習慣である
このように幸せになろうと思えば誰もがなれる。けれども、口では「幸せになりたい」のに、「自分は不幸である」という殻に閉じこもっている人が多いのはなぜであろうか。それは、幸せになるのが怖く、今のままでいる方が楽だからである(4p31)。幸せになると本気で決意しても失敗すれば傷つく。傷つくくらいならば、今の不幸のままでいい。いっときの幸せを手に入れてもそれが長続きするかどうかわからない。それならば最初から幸せを手に入れなくてもいいと考えてしまうのである(4p32)。

いま、ここを全力で生きてみる
「今のままの自分」でいることは楽である。そこで、人は、変わられない理由、いまのようにしか生きられない理由を自分に対して言い訳をする(4p40)。いつまでも不幸にとどまり、人生を変えられない人は、自分の不幸を「過去」と「他人」のせいにすることが多い。けれども、過去も他人も変えることはできない。変えることができるのは、「いま」と「自分」だけである。自分の不幸の原因を過去や他人のせいにしていることが、人生の流れを淀ませ停滞させている最大の障害物なのだから、このブロックを解除しない限り、いい人生の流れをつくりだすことは難しい(4p45)。

そして、『ゲシュタルトの祈り』という詩を作っている。
私はあなたの期待に応えるために、この世に産まれてきたわけではない
あなたも、私の期待に応えるために、この世に生まれてきたわけではない
あなたはあなた。私は私。
もし、ふたりが出会うことがあれば、それはそれで素晴らしいこと
もし、ふたりがふれあうことがなくても、それはそれでいたしかたのないこと(3,4p44)。
あなたは、他の誰とも違うかけがえのない存在である。そして、私も他の誰かと交換不可能なかけがえのない存在である(3)。過去への捉われや未来への空想、他人への責任転嫁を止めよ。他人に期待に応えることも止めよ。そこからしか自分の人生は始まらない。なればこそ、私は私のことをして、あなたはあなたのことをするとパールズは唱える(4p47)。
人生のミッションに気づくには深い智慧にアクセスする必要がある

アメリカやオーストラリアの先住民、とりわけ、シャーマンたちは地図を持たずにどの方向に進めばよいかがわかり広大な原野を縦横無尽に歩くことができた。それも「ミンデル」の言う「プロセスワーク」で使うスキルを身に付けていたからなのである(4p182)。
【引用文献】
(1) チャーリーン・ベリッツ、メグ・ランドストロム『パワー・オブ・フロー』(1999)河出書房新社
(2) 諸富祥彦『生きづらい時代の幸福論』(2009)角川ONEテーマ
(3) 諸富祥彦『あなたがこの世に生まれてきた意味』(2013)角川SSC新書
(4) 諸富祥彦「自分に奇跡を起こす心の魔法40」(2013)王様文庫
(5) ソニア・リュボミアスキー『人生を幸せに変える10の科学的な方法』(2014)日本実業出版社
クランボルツ博士の画像はこのサイトから
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