2015年08月15日

第33講 右脳と未来予知(2)

アジアのシャーマンは太鼓のリズムで肉体と魂を切り離す

 あらゆる自然現象にはリズムがある。生命はその進化の過程で、自然現象に、呼吸や心臓、脳や生殖のリズム等を見出してきた。私たちがリズムに心地よさを見出すのは、それが、生命や自然との共鳴だからだ。すなわち、リズムをあわせることは、生命が太古の昔から継承してきた「振動する身体」を確かめている瞬間だともいえる(4)

 アジアのシャーマンたちは、儀式で歌や音楽を使い、トランス状態に入っていく。シャーマンが精神世界へと移動するには身体と魂を切り離す必要がある。そのきっかけに使われるのが太鼓である(3)。儀式の方法は地域によって異なるが、一般的には太鼓による独特なリズムに合わせて意識を変え、予知や治療などの超常的能力を発揮していく(3,4)。地域差はあるが、太鼓のリズムは心拍数に近い100〜120BPMのリズムを刻む。現代でもトランス音楽等で100〜120BPMのリズムを長時間聞き続けるとトランス状態に近い意識になることができるとされている。だから、シャーマンにとって、太鼓は重要な意味を持つ。太鼓を魂の乗り物と位置づけている地域すらある(3)。シャーマンが叩く太鼓のリズムは、人類の身体に記憶されているリズムと自然界の波長をあわせ、生命が内包する自然のリズムを増幅させるアンプのような役割を担っている(4)

中南米のシャーマンは幻覚植物を利用して肉体と魂を切り離す

 アジアのシャーマンが踊りや祈り、歌で覚醒していくのに対して、南米、とりわけ、中南米の原住民たちは、1万年以上も前から幻覚植物を利用して覚醒する(1,2)

 例えば、南米のシャーマン(クランデーロ)は、アマゾン川流域に自生するアワヤスカとチャクルーナの葉を混合させて作った幻覚剤を利用する。アヤワスカの有効成分はハルマリン(1,2)、チャクルーナの有効成分はトリプタシンであり、強力な幻覚作用を持つ。服飲後30分ほどで効果が現れ、作用時間は2〜6時間程度だが、強力な幻覚作用に襲われる(1)

 メキシコのインディアンは、メスカリン等の幻覚性物質を含む幻覚サボテン「ペヨーテ」を利用し、マヤやアステカ等のメキシコ文明でもシロシビンやシロシンを含む100種類以上の幻覚きのこ「マジックマッシュルーム」が儀式や治療に用いられた(2)

リズム運動はセロトニンを活性化させ、幻覚を引き起こす

 幻覚植物を利用しない場合であれ、する場合であれ、シャーマンたちがトランス状態に入って幻覚を見る点は共通している。幻覚=トランス状態の鍵を握るのが「脳の安定化装置」である(2)

 歩行や呼吸、咀嚼といった反復したリズム運動を行うと、脳内のセロトニン神経が活性化することが実験から確かめられている(4)。また、踊りや歌等による単純なリズム運動もセロトニン神経を活性化させることがわかっている。また、幻覚植物の成分であるシロシビン等は、セロトニンとよく似た分子構造を持つ。このため、セロトニンレセプターの働きを強める(2)

 人類の脳は、それ以外の動物に比較して大脳新皮質が極端に肥大化し「不安定化」している(2)。このため、脳に外部から流入する情報を取捨選択することで脳の安定化が図られている。ところが、セロトニンやその受容体であるセロトニンレセプターと呼ばれる脳神経伝達物質の働きが強まると、この安定化装置の「ネジ」が緩んで外界情報が次々と流入してくる(2,4)。このため、普段はゲットされない膨大な外部情報が脳内に流れ込む。この外部情報と潜在意識に記憶されている情報とが組み合わされたときに、人は「幻覚」を見るとされている(4)

脳内麻薬を分泌する松果体〜幻覚を誘発するジメチルトリプタミン

 また、脳の中心付近の脳幹や小脳上部に位置し、2つの視床体が結合する溝にはさみ込まれた約8mmの赤灰色の内分泌器官、松果体からは、生死に関わる危機に陥った時に脳の麻薬物質と言われ幻覚を引き起こす「ジメチルトリプタミン(DMT)」が分泌されることがわかっている。DMTは、「アヤワスカ」の他、ある種のヒキガエルやヒトの血球等にも存在する物質である(7)

 未開部族らが祭りや踊りを通じてトランス状態に陥り、非日常的世界を経験するのは、ある種のリズムや運動でDMT等の脳内物質が放出されるためだとも言われる(7)

ジメチルトリプタミンの働きで臨死体験が起きる

 松果体は、扁桃体が形成される以前から存在する古い器官で、脳幹等の古い脳とより密接に関係している。そして、脳の深部に到る三つの神経節細胞を有し、その一つは脊髄の巨大なニューロンとも結合している。

 生死に関わる危機にさらされると、松果体から幻覚物質ジメチルトリプタミンが放出されるのは、危機や死に対する恐怖を和らげるためではなく、日常的にはフィルターがかかった情報を認識し、危機に対処するための過去の記憶を呼び起こし、危機に対する突破口を切り開くためだとも言える。

33Rick Strassman.jpg 齧歯類の研究等から松果体で生成される幻覚物質やホルモンは、神経細胞であるニューロンの感受性や反応に影響を与えることがわかっている。そこで、DMT等によって、例えば、電磁波のように普段は認知できない外界刺激を感知できるようになる可能性もある(7)

 ニューメキシコ大学の精神医学者リック・ストラスマン(Rick Strassman, 1952年〜)教授が、計60人以上の被験者に対して400回以上に渡ってDMTを静脈注射で投与する実験を行ったところ、被験者の半数近くが地球外生物のエイリアンに遭遇したという。そこで、ストラスマン教授は、宗教的な神秘体験や臨死体験は松果体で生産されるDMTが関係すると考える。また、米国の幻覚剤の研究家であるテレンス・マッケナ(Terence McKenna, 1946〜2000年)は、DMTはエイリアンがいる異次元に誘う作用があると主張している(7)

生物は無意識で周辺環境を判断してきた

 長い進化史を見れば、生物は脳がない時代から、身体感覚を用いて情報を得て判断してきた。大脳新皮質、主に前頭葉が発達することで意識が形成され、さらに、250万年前に言語が発明され、言語情報を共有することによって、人間の環境適応度はさらに高まった。けれども、このことで、無意識から情報を引き出す能力は弱まった。脳内で顕在意識だけを処理する、言わば観念病に侵されているともいえる。無意識の領域から情報を引き出すには、観念レベルを超えた判断が必要なのである(6)

シャーマンは無意識から情報を得て幻覚を見ている

33Mckenna.jpg ヘミシンクと呼ばれる音楽は、僅かに異なる波長のリズムを左右の耳から流す。脳は左右の耳から入るリズムを同調させようとするが、微妙に波長がずれているため、リズムにゆらぎが生じ、幽体離脱などのトランス状態を引き起こす(4)。これと同じく、シャーマンは脳の安定化装置を緩めることで、トランス状態に入り幻覚を見ていると言える。そして、トランス状態に入ると、通常では入ってこない、自然界の微細な動きや人の肉体の微細な変化、心の変化と言った情報も脳内に入ってくる。シャーマンの働きは、こうした通常では掴み取れない微細な外界情報をゲットすることにある(2)

 シャーマンの脳は、左半球の前頭葉・大脳新皮質(=言語野)の働きが抑えられ、言語以前の空間把握を司る右半球の働きが活発化している。思考の集中時に見られるベータ波に、通常では見られないピーク波が現れる一方、通常眠っている時にだけ見られるデルタ波も現れる(5,6)。いずれも、通常の脳の活動状況には見られない現象だが、シャーマンの脳は、デルタ波が示す睡眠時と同じ無意識下で情報を処理すると同時に、ベータ波が示す無意識領域から何らかの情報をゲットしていると考えられる(6)

 そして、DMTで目にされる幻覚が誰しも似たような内容であることは、こうした幻覚が、人類が過去に経験して蓄積して共通に持つ古い記憶『集団的記憶(集団無意識)』に由来する可能性が高いことを示唆する。そして、その集団的記憶は、危機に直面した際に生存の可能性を高めてきた(7)。すなわち、普通の人間のイメージを超えて、表層意識ではなく、無意識領域に蓄積された情報源からの情報を意識的に収集することで、直感的に物事の方向性を決定するシャーマンの能力は、原始人類には生き残るうえで欠かせない予知・予言となってきたのである(6)

【引用文献】
ストラスマン教授の画像はこのサイトから
マッケナ氏の画像はこのサイトから
posted by la semilla de la fortuna at 17:49| Comment(0) | 脳と神経科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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