LSDは左脳と右脳の融合によって超越体験を引き起こす
1950〜1960年代にかけて、LSDの臨床実験や研究がなされたが、LSDで経験される「変性意識状態」が、宗教で言われてきた神秘体験と極めて類似していることが明らかになって来た(1p53)。

外から見る人類学から自ら体験する人類学へ
1960年代後半から1970年代にかけて、宗教人類学では大変な変化が起きた(1p52)。それまで人類学者たちは、「儀礼」を外から観察して、神話の構造分析や社会・政治組織とつなげて論じて来た。けれども、この時期から人類学者たちはシャーマンや呪術師に直接弟子入りして、自分の体験をベースに内側から儀礼の内容を語るようになったのである。この変化の背景には環境問題や戦争等、近代技術や合理主義がもたらした限界が明らかになったことがある(1p53)。
変性意識状態から洞窟壁画と宗教は産まれた

けれども、アリゾナ州立大学マイケル・ウィンケルマン教授(Michael Winkelman)によれば、機能面からみれば、本能、情動、知性という区別は意味を失ってはいない(1p55)。教授は、ペンシルバニア大学のユージーン・ダギリ(Eugene G. d'Aquili,1940年〜)博士や人類学者ウィリアム・ラフリン(William S. Laughlin, 1919〜2001年)博士が提唱する「神経現象学」をさらに深め、脳科学とシャーマニズムの研究をつなげようと試みている(1p53)。
原生人類の認知革命は4〜5万年前にさかのぼる。この時期、ラスコーをはじめ洞窟芸術の爆発が起こる(1p57)。後期旧石器時代に起きたこの精神革命は宗教につながるが、洞窟や岩絵に描かれたモチーフは、現代人が変性意識で体験する光のビジョンと共通する。すなわち、その背景にシャーマニズム的な呪術的実践で生れた変性意識状態があったことは間違いない(1p58)。
ダンスは変性意識状態をもたらす
マジック・マッシュルームの主成分であるサイロシン、サイロシビン等(1p54)、幻覚物質を用いるとセロトニンの抑制作用が抑えられ、海馬に影響し、側頭葉が刺激される。その結果、情動や視覚中枢のブロックが解放され、抑圧されていた無意識の情動が浮上して幻覚体験が生れる(1p56)。一方、また、踊り、神話の詠唱等で脳が同時共鳴していくとダギリが示したように副交感神経が活性化する(1p56)。
人類はその歴史の大半を、狩猟採集民として生きてきた。その最初の時代から人類はダンスしてきた。そもそも、人間は、なぜ、徹夜で踊って、身体の痙攣するトランスに入ろうとしてきたのだろうか。それは、ダンスのトランスは、通常とは違う意識状態、光に満ちた体験をもたらすからである。ダンスは脳のなかに潜在している回路を開き、大きな統合をもたらす。
中国では、人間を「気」や生命エネルギーの場としての「微細な身体」として捉えてきたが、興味深いことに、「気」に相当する概念は狩猟採集民のなかにもある。最近のDNA 人類学の発達から、人類の発生と分化、移動については、かなり理解が進んできたが、カラハリ砂漠で生きるサン人、いわゆるブッシュマンが、もっとも古い原型を現代に保っている民族である。そして、彼らは、中国の気やインドにおけるプラーナやクンダリニーをめぐる思考と、ほぼ同一の生命理論をもっている。
そして、その鍵となるのは、踊りである。長時間踊っていると、臍の下にある生命エネルギーが熱くなり、脳天を突きぬけて上昇する。インドでクンダリニーの覚醒と言われるような体験が、狩猟採集民のヒーリングダンスのトランスにおいても、生まれてくるのである(2p23)。
本能、情動、知性が統合された変性意識状態が意識を進化させる

そして、こうした統合意識モードによって、自他の心の様々な面を観察する「メタ意識」仏教でいう「憶念(おくねん)」も誕生した(1p56〜57)。とはいえ、幻覚物質は変性意識状態をもたらしたとしても、それ以上の意味をもたないという反省がさらなる宗教の進化を促したのではないだろうか(1p57)。そう永沢准教授は考える。
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【引用文献】
(1) 永沢哲『瞑想する脳科学』(2011)講談社選書メチエ
(2) 永沢哲『日本トランスパーソナル心理学/精神医学会第12回学術大会基調講演:惑星的思考へ』トランスパーソナル心理学/ 精神医学vol.12, No.1, Sept, 2012 p.10-p.29